私と線維筋痛症との出会い
私はFMを1日で受け入れました。インターネットを用いて日本語のサイト、英語のサイトを調べいかなる疾患であるかを知りました。PubMedという英語論文を調べる無料サイトにFibromyalgiaを入れると膨大な論文が掲載されている(つまり世界の常識である)ことを知りました。
私がFMを1日で受け入れた理由は以下の通りです。
1:私はCRPSを専門にしていました。実はFMはCRPSと類似した疾患なのです。CRPS患者さんの中には当初あった腫れ、発赤、局所発熱が全くなくなり痛みだけが残る患者さんがいることを知っていました。当然ですがFM患者さんもFMとは知らずに診療していました。他覚所見のないCRPSの痛みが全身に広がった状態と仮定して治療していました。仮病扱いをしたり、「異常がない(から再度受診しても意味がない)」とは言いませんでしたが、適切な治療はできていなかったと思います。CRPSを専門にしていたことが幸いしました。
2:PubMedという英語論文を調べる無料サイトにFibromyalgiaを入れると膨大な論文が掲載されている(つまり世界の常識である)ことを知りました。
3:FMの原因の一つに下行性疼痛抑制系の機能低下という説があります。ノイロトロピンという日本製の痛み止めがあります。ノイロトロピンの鎮痛効果は下行性疼痛抑制系の活性化と推測されています。実はノイロトロピンは「訳のわからない痛みに有効」と言われています。「訳のわからない痛み」とは線維筋痛症であったと気がついたのです。私はCRPSの動物モデルにノイロトロピンを注射すると鎮痛効果があるという研究をしたため、ノイロトロピンに少し詳しかったのです。
4:アメリカではFMは常識です。医師、看護師は当然知っています。後日掃除をしている人にFMという病気を知っていますかと尋ねると。「知っています。痛い病気です。」とごく普通に知っていました。テレビや新聞に病院の宣伝としてFMがごく普通に出ているため、当然といえば当然です。
PubMedを使えば世界の常識であることはたちどころにわかるはずなのです。しかし、人間は自分の信じる理論に不都合な事実は無視するか、難癖をつけて質の低いこととみなしたがります。
日本人医師には文盲はいないと信じています。一度はFMという病名を見聞きしていると信じています。しかし、多くの場合、重要と思わず無視するか、受け入れを拒絶します。
私は18年も伊達に医師をしていたために、世界の常識であるFMを知りませんでした。非常に恥ずかしいことでした。しかし、FMを重要であると思わず無視したり、拒絶はせず、すぐに受け入れました。私の経歴がFMを受け入れるのに有利であったのです。しかし、アメリカで「FMなどという病気はあるはずがない。」と言おうものなら、「あいつは知識もなければ、新しい知識を学ぶ能力もない。たとえ知識がなくても新しい知識を学ぶ能力さえあれば時間がたてば熟す未熟者である。しかし、知識がない上に新しい知識を学ぶ能力もないから死ぬまで熟さない不熟者である。」と見なされてしまったでしょう。
日本で線維筋痛症を認めない医師に「FMは世界の常識です。」と言っても自分の身の回りの情報を優先してしまいます。人間は自分の信じる理論に不都合な事実は無視するか、難癖をつけて質の低いこととみなしたがるため、やむをえないのかもしれません。